中国語学習完全ガイド
― 1年以内にマスターする中国語

このページでは、

「日本人が、1年以内という比較的短期間で、ノンネイティブとしてのコミュニケーションに困らないぐらいのレベルの中国語能力を身につける」

という目的に絞り、そのために大切な学習法のポイントを紹介する。著者の中国語学習歴についてはこちらを参照のこと。

目次


発音・発音・発音

不動産の三大要素は「場所・場所・場所」と言われているように、中国語学習に成功する上で最も重要な三大要素は「発音・発音・発音」である。

[相原 1999] にある 「中国語 発音よければ 半ばよし」との言葉通り、中国語習得における発音のウエイトは大きい。

学習の最も初期の段階で、ネイティブに徹底的に教えてもらい、チェックしてもらうこと。その場合、訛りに偏ってしまうのを防ぐため、北京と上海から1人ずつ、のように、異なる出身地の複数人からチェックしてもらうとなお良い。

特に反り舌音 (ch, zh, r) 、有気音・無気音の対立、鼻母音 (eng ang an の違い等)、四声等の日本語には無い要素を重点的に練習すると良い。この段階が終わってないのに独習を始めるのは危険である。

「カタカナ発音でも通じれば良い」という考えは捨てよう。中国語はカタカナでは表記できない。このように考えてみよう―変な例だが、「シ」が全て「ス」になる東北弁(ズーズー弁)をビジネス上で使っても一応「通じる」が、その人に対して周りの人がどのような印象を持つかを考えてみよう。

逆に言うと、正確な発音で標準語を話す外国人は、中国では高く評価される。標準語は、中国の多くの人にとって母語ではなく、訛りのない正確な標準語を話す中国人は実はそれほど多くは無いのである。


まずは教科書

「中国語は漢字で書いてあるから読めばおおよそ意味がわかる」という考え方は、中国語を習得する上で捨てた方が良い。では漢字ではなく全てピンインだけで書いてあった場合どのぐらい分かるというのだろうか。

中国語、特に中国語会話をマスターする、とは、発音⇔漢字⇔意味 ではなく、発音⇔意味 の結びつきを確立することである。 [相原 1999] 基礎的な文についてはこの「回路」が出来上がるまで何度も音読・暗唱しよう。

そのために、初級の段階では良質の教科書を1~2冊ほど厳選し、それを体に叩き込む必要がある。この教科書選びが、語学学習の明暗を分ける大切な要素だと言ってもよい。ここで、教科書は、以下の条件を必ず満たすことが望ましい:

  1. 短い会話文を中心としたものであること
  2. 長い閲読用教科書や、単なる単語集では、初級に必要な定型文を体に叩き込ませることができないし、実践で使えない。数文~十数文からなる会話文を中心として単語と基礎文法事項が学べるものが良い。音読やリピーティング、シャドーイングを何度も繰り返す。暗唱できればベスト。

  3. 音声が付いていること
  4. 文字のみでは間違った発音が染み付いてしまう恐れがある。携帯音楽プレーヤーなどに入れて何度も聞くと良い。また、音声を使ってリピーティング、シャドーイングの練習をする。

  5. 発音がカタカナのみで表記されていないもの
  6. 中国語文にカタカナでしか発音が併記されていないような教科書は捨ててしまおう。上で書いたように、中国語はカタカナでは表記できない。カタカナで音を近似することは、通じないばかりでなく、初学者に間違った発音を染みつけてしまう。百害あって一利なしである。

自分のオススメは、以下のシリーズである。


李晓琪 『博雅汉语』 北京大学出版社, 2004年.


苏英霞, 翟艳 『汉语口语速成』 北京语言大学出版社, 2005年

どちらも、初級から上級までを幅広くカバーしており、上記の条件を満たす良い教科書だと思う。日本で出版されている良著は少ないが、



上野 恵司 『NHK新中国語入門』 日本放送出版協会, 2001年

が学習の初期段階に使うには比較的良い。

また、



相原 茂, 石田 知子, 戸沼 市子 『Why?にこたえるはじめての中国語の文法書』 同学社, 1996

は、文法事項が包括的に分かりやすく書いてある非常に良い教科書である。音声が付いていないのが玉に瑕であるが、自分は中国人ネイティブの知人に例文を全部朗読してもらってMP3にして聞いていた。


教材は中国で買え

中国語教材は中国で買おう。安いだけではなく、モチベーションを高める目的でも中国に実際に行く意味は大きい。航空券ぐらいは投資だと思って割り切ろう。日本では3,000円ほどするCD付きのしっかりした教科書が30元(日本円で400円)ぐらいで売られている。

上海、北京などの大きな都市の書店、特に「外文书店」ではかなりの量の中国語教材が売られている。他には、「北京语言大学」の書店も中国語学習書籍の品揃えが良くオススメである。出張や旅行などの機会があれば寄ってみよう。

ちなみに、HSK のテキスト(新漢語水平考試大綱)も、公式ページから買うと3,000円以上するが、中国では40元ちょっと(日本円で500円)ぐらいで買える。後者の方が適正な価格だと思うのは自分だけであろうか。


続く仕組みを作ろう

さて、教科書を手に入れたら、どのように学習を進めるのが良いか。もちろん、テキストを読み、単語を確かめて意味を把握し、文法の解説をひととおり読むのは必要である。問題は、それだけでは中国語会話はできるようにならないことである。

上にも書いたが、この教科書は、文法事項をひと通り確認するのはともかく、文法・発音・意味の結びつきの「回路」を確立するために用いるものである。英語学習法として有名な「英語上達完全マップ」では、「上達の方法は端的に言って、文構造・意味を把握している文を脳、音声器官を通じて出し入れすること」と言っているが、自分もまったく同感である。そのためには、音読をはじめとした日々のトレーニングが欠かせないのである。

具体的な方法については、ほとんどの語学に共通だと思われるため、具体的な方法論については他の書籍やサイトに譲ることにする。ポイントは、ひたすら聞き、音読・リピーティング・シャドーイング等をひたすら練習することである。この「ひたすら」というのは多ければ多いほど良いが、1年以内という時間軸を考えると、聞くのは10回、音読は2~3回というのが現実的な回数だと思う。

ひたすら練習、とはいえ、テキストを買ってきた日に10回聞いて「はいおしまい」では全く記憶に残らない。反復練習は、人間の忘却曲線の特性をうまく使うと良い。例えば、1回目に練習した1日後に復習したら、そのまた1週間後に復習、そのまたさらに2週間後に復習、というように、復習の間隔を伸ばしていくと良い。


ネットをフル活用しよう

「続く仕組み」を作る上で、学習がこのぐらいの段階に進んだ時点で大切なのは、「中国語を勉強する」から「中国語勉強する」に切り替えることである。よく、英語の勉強、とかいって、日本語でも見もしない CNN や BBC を視聴したりする傾向があるが、このような無理な学習は続かない。「もしその教材が日本語で書いてあったとしても、あなたは読みますか」という質問を一つの基準にすると良い。その答えが「Yes」となるような中国語教材に出会えたなら、「学習の継続」という意味では成功したも同然である。

ネット上には紹介しきれないくらいたくさんの中国教材が溢れているので、そのようなものを習慣化すると良い。例えば ChinesePod は、中国語を学びたい外国人向けのポッドキャストであり、基本的にテキストを見なくても耳で単語や文法事項を学習できる(ただし解説は英語)。リスニング「時事中文」も、定期的に更新されるニュースを使って学習のできる良い教材である。

さらに中国語学習の便利なところは、インターネット上で無尽蔵とも思われる量の教材をいとも簡単に利用することができるという点である。2011年現在、中国語は近いうちにネット上での第一言語になると予想されており、今後、さらにネット上に中国語の情報があふれるという状況は容易に想像ができる。

オススメなのは、百度などの検索エンジンで「中日对照」や「双语」などの検索キーワードを使い、日本語中国語、もしくは英語中国語の対訳テキストを検索して読んでみることである。特に中国語圏の英中対訳テキストの量は圧倒的で、英語が分かれば、分からない箇所の訳を参照する、ついでに英語も勉強する、などの使い方が色々できる。

これらのテキストを読む時も、ネットの力をフル活用しよう。

在线汉字注音软件は、中国語文を入力するとピンインを振ってくれるWebサービスである(下の「汉语拼音查询标注」ボタンを押して使う)。多音字もかなりの精度で解析してくれる。

PinConv+は、中国語の文章を分割、ピンイン振り、辞書引きしてくれるツールである。中国語の分からない単語に出会った時の辞書引きというのは割と面倒なものである。なぜなら辞書はピンインが無いと引けないが、そもそもピンインが分からないから調べているのである!そして部首・画数・手書き入力は遅い。そのためこのようなツールが重宝する。

Google 翻訳の中英辞書も自分は愛用している。キーワードを入力するとすぐに候補が出るのが良いし、ウェブ上から自動解析していると思われ、語彙が豊富で使い勝手が良い。

他にも、インターネット上には小説やドラマ、映画などの教材が山のように転がっている。著作権的にアウトなものも多いため推奨はしないが、最近では奇艺など正規版のみを扱った動画配信サイトなどもあり、自分で色々と検索してみたり、中国人の友人に「ネット上で何見てるの?」と聞いてみても良い。


語彙を強化しよう

どのような語学でも多くの語彙を覚えることは実用のための重要な要素である。この段階まで来てはじめて、日本人であるアドバンテージ、すなわち「漢字を知っていること」の強みが生かせるようになる。中国語も、特に比較的難しい単語(=漢語)については日本語と共通の単語が多いのだ。そのため、話している時に分からない単語があっても、日本語で対応する漢語を思い浮かべてそれをそのまま中国語読みすると通じることがある。もちろん、日本語と中国語で意味や用法が違う単語も多いので注意する必要がある。

[相原 1999] によれば、「永遠の中級者」を脱する一つのキーは、漢字一つ一つの意味を理解すること、単語の内部構造(例えば、”结婚” は動詞-目的語の構造である)を把握することである。このために、漢字一つ一つの音をちゃんと覚えることは必須である。自分がよくやっている練習法は「なんでも中国語読み」で、これは街中で目についた看板の漢字を、中国でも日本でも、全て頭の中で中国語読みするというもの。これで分からない字があればひたすら辞書で調べる。そうすると、上に書いた「日本語の漢語を中国語読みしたら通じた」がやりやすくなる、分からない単語であっても辞書がすらすら引ける、など良いことがたくさんある。

この段階まで来れば、テキストや教材を活用してどんどん語彙を増やしていこう。上に書いたようにネットをフル活用して閲読用テキストを大量に読んでもよいし、


津田 量, 聴読中国語, 東進ブックス, 2008年

のような教材を使ってもいい。


中国を好きになろう

せっかく中国語をやっているのだから、中国という国や人に対して、(できればポジティブな)興味を抱こう。言語は、その言語の使われる文化や歴史とは切り離すことはできない。その国や背景にある文化をそのまま受け入れることも、言語を学ぶという一つの大切な要素である。

これは何も精神論に限った話ではない。しっかりとした科学的根拠がある。

[白井 2004] 『外国語学習に成功する人、しない人』によれば、言語を使う国が好きだ、その国の文化に興味がある、などの「総合的動機付け」のほうが、昇進や昇給に必要、テストで良い点を取りたい、などの「道具的動機付け」よりも、長期的に成果につながるそうである。つまり、テストなどによる動機付けは2~3ヶ月程度の短期的には効果的かもしれないが、やはり1年やそれ以上というスパンで自発的に学習を継続していくのは、その先にある根本的な動機付けがどうやら必要のようである。

まとめ

以上、1年以内にある程度の中国語力を身につけるための学習法のエッセンスを紹介した。まとめると、以下のようになる:

  • とにかく正確な発音をまず身につけよう
  • 教科書は会話・音声付き・カタカナ抜き、を慎重に選ぼう
  • 教材は中国で買おう
  • 音読・リピーティング、シャドーイングを続ける仕組みを作ろう
  • ネットを駆使して語彙を強化しよう
  • 中国を好きになろう


著者の中国語学習歴

  • 2008年12月頃 バイドゥ株式会社(中国検索エンジン最大手の日本法人)入社のために中国語の勉強を真面目に開始
  • 2009年3月 中国語検定3級合格
  • 2009年4月~ 上海・北京に主に滞在し検索エンジン開発に携わる(ただし業務上はほとんど英語を使用)
  • 2010年6月 新HSK5級合格 この頃から主に日本滞在
  • 2010年10月 楽天技術研究所に入社 東京滞在
  • 2010年12月 新HSK6級合格

参考文献

[相原 1999] 相原 茂 『中国語の学び方』 東方書店,1999.
[白井 2004] 白井 恭弘 『外国語学習に成功する人、しない人』 岩波書店, 2004.

 

3 Responses to 中国語学習完全ガイド | 1年以内にマスターする中国語

  1. [...] This post was mentioned on Twitter by 村上雄大, Takayuki Kawazoe, Yukino Baba, SAKAUE Akkus Tatsuya, Akiko Murakami/村上明子 and others. Akiko Murakami/村上明子 said: 中国語、上達しないのはカナ読みのせい?! RT: @mhagiwara: 「中国語学習完全ガイド ― 1年以内にマスターする中国語」http://lilyx.net/chinese/ 自分の中国語学習法のノウハウを詰め込んでみました。中国語をちゃんとやってみたい方、参考にどうぞ! [...]

  2. [...] その後は、广州购书中心(書店センター)をまわったり。本屋をうろうろしていると最近その国や地方で何が流行っているのかが掴めるので好きだ。中国語教材は今のところ足りているので買わなかったが、子供用の中国語・英語のバイリンガル(双语 shuan1yu3)絵本がかなり充実していて、実はこれらの本、外国人の中国語学習者にかなりオススメである。(「教材は中国で買え」というのは以前に書いた通り) This entry was posted in china. Bookmark the permalink. (0) (0) (0) (0) Total: 0 ← 中国版twitter「新浪微博」のAPIの使い方 [...]

  3. DengYao says:

    すごいですね~~中国の勉強は大変なことと思ったが、ここまでうまく話す、本当にすごい~

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

*

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>